8.
ひろくんは今、ほかの雪だるまのみんなといっしょに、あの山のてっぺんを見ています。
一人ぼっちだった3つの きせつは長かったのに、みんなといっしょにあそべた まっ白な きせつは、もう終わろうとしていました。
みんなが来てから、ひろくんは毎日みんなといっしょに あそびました。
ひろばに来たばかりで どこに何があるか分からない雪だるまたちに、色々 おしえたりもしました。
ひろばにある 大きな木の のぼり方を おしえてあげたり。
雪を ほって 枝やバケツを見つけて、ちゃんばらが できることを おしえてあげたり。
今は こおってすべってしまう川も、まわりが 緑になると中で泳げることを おしえてあげたり。
みんなに色々 おしえてあげたひろくんでしたが、何を言っても えらそうに じまんすることだけは しないようにしていました。
それは…
自分を作ってくれた人もいない、雪だるましかいない山の上、
雪だるまにとって、みんなと たのしく あそぶことだけが たのしみだったから。
じまんなんてされても、だれも たのしくないことを しっていたから。
そんな、たのしかった白い季節が終わろうとしています。
みんなといっしょで たのしかったから。
みんなとずっといっしょに あそんでいたいから。
ひろくんは、今度こそ みんなと いっしょの ばしょに 行きたいと 思っていました。
去年、ひろくんは トップを はしっていました。
だから、うしろにいたみんなが見えなくて、どこに行ってしまったのか分からなくなってしまいました。
だから、こんどは わざとビリになろうとしていました。
まけるのは いやだけど、ひとりぼっちは もっといやだったから。
みんな いっせいにスタートしました。
ひろくんは、さいごの雪だるまの 少しうしろを ついていきました。
少しして、ひろくんは 今歩いている雪が すべるようになってきていることに気づきました。
ひろくんの少しまえを走っている雪だるまたちも、なんだか走りづらそうです。
ひろくんが足もとの雪を見ると、いつもより雪がうすくなって、黄緑色をした草むらが見えるようになっていました。
走っていると ぱしゃぱしゃ という音がして、まるで川のようでした。
へんに思ったひろくんが ふりむくと…
雪がなくなってしまった、黄緑色のひろばが広がっていました。
びっくりしたひろくんが、走っている雪だるまに おしえようと まえを向くと…
さいごを走っていた雪だるまが、たおれていました。
びっくりしたひろくんが近づいて、起こそうとします。
すると…
さわった所が、ゆっくりと くずれて しまいました…
「どうしちゃったの?」
『ぼくにも 分かんないよ…ただ、力が入らないんだ…。』
「…」
『ねぇ…ぼく、どうなっちゃったの?』
「…きみの体、ぼろぼろになっていくみたい なんだ。」
『…そう…もう、自分の体のことも分からないよ…』
「…」
『…きみは、もう走るの やめたの?』
「…だって…」
『…走れるんなら走りなよ。ぼくも、少しした…ら、また 走…るか…ら……』
「…」
すっかり黄緑色になってしまった さかみちに、ぽつんと おかれた 白い雪山。
ことばを話せなくなったその雪山は、あっという間に 溶けてしまいました。
目と口のかわりだった、2この石ころと 1まいのはっぱを のこして…。
黄緑色のしばふに おいつかれた雪だるまたちが、次々に くずれていって しまいました。
ひろくんが走って おいついても、すでに 溶けてしまった雪だるまばかりでした。
ある雪だるまは、うでがわりだった枝をのこして。
ある雪だるまは、ぼうしがわりだったバケツをのこして。
なにも付いていなかった雪だるまは、なに一つのこさないで。
のこしたものは みんな ちがいましたが、おなじこともありました。
それは、黄緑色のしばふに おいつかれた雪だるまから 溶けていったこと。
それは、だれも みんなが 溶けるところを見ずに 溶けていったこと。
それは、みんな たのしく走っているうちに、溶けていったこと。
そして…
それは みんな、ひろくんだけを のこして 溶けてしまったこと…。