10.
ひろくんと黒い鳥は、山の まん中あたりに すわっていました。
ぼーっと、赤や黄色になった はっぱを見ています。
「はっぱたちも、木や はっぱと しゃべっているのかな」
【そうだね…。】
(ぼくたちと いっしょじゃないかな)
「いっしょ?」
(むかしは ぼくたちの声が 聞こえなかったように)
(今は ぼくたちの声が 聞こえるように)
「じゃぁ、きっと、さいごまで おちずに のこった 一まいが、ぼくと同じ気持ちになるのかな…」
(…)
【…そうかもしれないね。】
(…)
ひろくんと黒い鳥が話している あいて…ひろくんの雪は、だまってしまいました。
〜3かげつ まえ〜
(ぼくを みんなの ところに かえしてよ!)
その声は、黒い鳥のくちばしから きこえてきました。
『きみたちは しゃべれるのかい?』
(しゃべっちゃ いけないの?)
『いや…そんなことは言わないけど…きみたちも話せるとは思っていなかったから おどろいてね。』
(早く、みんなのところに かえしてよ!)
『あぁ、ごめんね。』
黒い鳥は、くちばしで つまんだ雪を ひろくんの おなかに もどしました。
(おかえり〜)
ひろくんの おなかの雪も、しゃべり はじめました。
【きみたちは、今までもずっとお話していたのかい?】
(そうだよ。)
【みんな いっしょに?】
(うん!)
【溶けそうになったことは ないのかい?】
(溶ける?)
【そう。みんなが ばらばらに なりそうになった ことは ないのかい?】
(そういえば…むかしは あったね。)
【むかし…だけ?】
(さいしょに まわりの雪と お別れしたとき。)
【そのときは、君たちも お別れしそうに なったの?】
(うん。でも、まだまだ みんなと いっしょに あそびたいから、みんなと ぎゅーって していたら…お別れ しなかったんだ!)
【そう…このまえ、まわりの雪と お別れしたときも?】
(このまえは、お別れしそうになるって分かっていたから、さいしょからぎゅーってしていたから だいじょうぶだったよ!)
【…】
「じゃぁ、ぼくが溶けないのは きみたちのせい?」
(あ、はじめまして ひろくん。)
「あいさつなんて いいから!きみたちの せいなの?」
(そうだと思うけど…なんで そんなに おこっているの?)
「きみたちが わがままなことを するから、ぼくだけ みんなと お別れしないと いけないんじゃないか!」
(…)
「そんなこと、今すぐやめてよ!」
(じゃぁ…ひろくんは、ひろくんが みんなと お別れしたくないから、ぼくたちに みんなと お別れしろって言うの?)
「…」
(そんなの、ひろくんだって わがままじゃん!)
「…」
【でもね?ひろくんも できればみんなといっしょにいたいから お別れするのがつらいんだよ。】
(…)
【そろそろ、ひろくんも みんなと いっしょに させてあげて くれないかな?】
(…)
ひろくんも、ひろくんの雪も。
その日はそれっきり だまってしまいました。
次の日も、その次の日も話しましたが、いつまで話しても けんかばかり。
なかよく なるはずも ありませんでした。
ひろくんは、いっしょにいた雪だるまたちと お別れしたくないだけだから。
ひろくんの雪は、ひろくんの中に いっしょにいる雪たちと お別れしたくないだけだから。
おたがいに、もう一人の自分を かなしませるために わがままを言っているのでは なかったから。
ひろくんと黒い鳥は、山の まん中あたりに すわっています。
ぼーっと見ていた赤や黄色になった はっぱが、さいごの1まいを おとすまで…。
ひろくんは溶けないまま…。